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ヒルデガルト研究会

12世紀ドイツの女性神秘家ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの神学・医学・薬草学・音楽についての研究

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女性性の神学<マリア=宇宙的なシンフォニーの受肉と救済>

第1章 受肉―<マリアとサピエンティア>
Ⅰ 問題意識の所在―歌詞から聴こえてくるもの 
(歌詞は最終終ページにあります。①~⑪の数字は歌詞中に埋め込み)
1) ヒルデガルト神学の中心的命題である受肉論のオリジナリティ
  ―元素の再創造(recreatrix)とはいかなる意味か?
  ―マリアはシンフォニーを懐胎するとはいかなる意味か?
2) マリアの純潔とは―「無原罪」とは、なにを意味するのか?
   ―原罪からの解放―救済とはなにを意味するのか?
3) ヒルデガルト神学にあって、救済史に占めるマリアの宇宙史的位置とは何か?
① 純潔の瞳⇒瞳=霊を映し出す鏡(光の反映-知恵)
② Material(物質/元素)=mater(母)=matrix(胎[子宮])
③ 父性の直接性:言と響き⇒聖霊ではなく御父の響きの必然性
④ 受肉―ヒルデガルト神学の中心的なテーマ
⑤ 予定説 キリストの予定説―受肉の予定説―RECREATRIX
⑥ 白い百合=知恵とシンフォニー⇒何を「原罪」と呼ぶか
⑦ Nutrix=神人協力=展開する歴史=救済史=エクレシア
⑧ 緑―viriditas⇒「聖霊により被造物に満たされる生ける力」
⇒詳しくは次回「ヒルデガルトの医学」
⑨ viriditasの懐胎:「仰せのごとく我になれかし」:従順による神の言葉=「生命力」の懐胎と再創造=RECREATRIX 
⑩ エクレシア―救済
⑪ マリアと宇宙:相互に響き合う大宇宙と小宇宙=神の知恵と人の知恵のハーモニー

Ⅱ 物質―宇宙の創造(図①②③参照)
A) materia―物質・宇宙の創造 
① 「世界が創造される以前から神は居られ、そして今も居られる。神に始まりはない。神はかつてもそして今も、光であり、輝きであり続ける。神は命であった。神が世界を創造しようという意思を抱いたそのとき、神は世界を無から創造したのである。世界を造る素材は、神の意思の中にあった。」(『病因と治療』1世界の創造)⇒図⑥
② 「最初に神が、光あれ、とおっしゃって光が現れたとき、創造の手段と母体(materia)は<愛>だったからである。」(86 書簡30)
●ローターのごとき宇宙卵のイメージ:コンシュのギヨーム『宇宙の哲学』でも宇宙は卵にたとえられる⇒ル・メートルのBIG BANG理論
●ヒルデガルトにおけるmateria(物質・源・原因)=mater(母・源)=matrix(子宮・源)=母性のイメージである。
●物質の創出・宇宙の創造それ自体が神の現れ(THEOPHINIA)であり、女性的なるものの目的は、この世に神を現すことにある」(181)⇒図①
―父性である神の言葉を孕み、物質化して宇宙を産み出すものとしての神の母性[子宮]
●悪意から生まれた原爆は破壊と悲惨のみを生み出した。神の創造したこの壮麗で摂理を保った宇宙が、愛(カリタス)の衝動と知恵(サピエンティア)以外から生まることがあるだろうか。

Ⅲ 人間の創造―大宇宙と小宇宙(前回参照)
① 「この人間という存在は、己の内に天と地と他のすべての被造物をもつているのだ。確かに人間は一つの形象ではあるが、その中には万物が秘められている。」(『病因と治療』1)⇒図④
② 12世紀の同一の見解(前回)
「大宇宙たる自然は調和した生ける自然で、この生ける自然の秩序を模範として、人間の魂は身体と結合され、大宇宙の調和が小宇宙たる人間に移される。」(ベルナルディス・シルヴェストリス『宇宙形状詩』)―ヒルデガルトに近似したマクロコスモスとミクロコシモス)
⇒プラトン『ティマイオス』
③ 人間は万物の構成要素のすべてを一通り有しているという意味で、「全被造物は人間の中にあり」、したがって人間という自然(本性)は全世界を小規模に内包している「小宇宙」(ミクロコスモス)であ(る)。(9世紀エリウゲナ『ペリフュセオン』今義博の要約より)
●ヒルデガルトは大宇宙に呼応し響き合う小宇宙として人間を見ており、その交点にイエス―マリアの受肉が宇宙史的に成立する。(人間=宇宙の図⇒予定説)

Ⅳ 原罪―性と知恵(図⑤⑥参照)
A) 原罪と性(前回参照 詳細次回「ヒルデガルトの医学」)
①「もしアダムがエヴァよりも先に罪を犯していたとしたら、原罪はあまりに重く救いようのないものとなり、人間はとてつもなく深く険しい絶望的な状態に陥り、救いを望むことも、救いを望む可能性すらもなかったであろう。だが最初に罪を犯したのはエヴァであったので――女は男より弱いがゆえに、罪からの救いのなさをよりたやすく無効にすることができたのである。」(47 「なぜエヴァが先に堕落したのか」)
②(蛇の女への敵意)「悪魔は女の生殖能力に対して最初から憎しみを覚えているからこそ、悪魔は女が子供を産むことがないように女を迫害するのである。」(『生の功徳の書』98)
B) 「原罪と知恵」に関するヒルデガルトのユニークな見解(⇒図④)
① 「悪魔の欺瞞を通じて、あの最初の原罪が起こった。それはむかつくような悪臭を放つ空気から立ち昇り、大地のすべてを覆い、昼の純粋な光を隠し、<知恵>のすべてのわざを、まるで軽蔑するかのように腐敗させていく霧の雲に似ている」(134 『神の御業の書』Ⅰ4-37)
② 優しい一陣の風とともに鋭い燃える炎によって、あの輝く火は男に輝く白い花を差し出した。その花は、一本の草の上に降りた露の滴のようにその炎の上にかかっていた。男はその香りを鼻で嗅いだが、口で味わうことも、手で触れることもなかった。身を離した彼は、そのために厚い暗闇の中に落ちてゆき、そこからはいあがってくることができなかった。
(Sci viasⅡ1.8)
⇒(ヒルデガルト自身の解説)「この男は、知恵という知性の働きをもって、法の掟そのものを、あたかもなにかの香りを嗅ぐためにそれを鼻に引き寄せるように、自分へ引き寄せたからである。だが人間はそのものの好ましい内的な力を完全に口に入れることはなく、また祝福の充満のうちに両手の業でこれを成就することもなかった。」(同上)
●炎は三位のうち、特に父を意味し、草の上に降りた露は「生ける力」を意味する。花は三位の響きと離れずに咲いている。三位は響きである。
③「ヒルデガルトは禁断の実を食べる罪を、命令された花を摘まないことにおきかえる。アダムは犯すことの罪ではなく、言葉と聖霊の呼びかけを無視することを罪としている。」(190)
●「生花」の例から

まとめ
アダム―したがってエヴァの罪は肉体的な欲情にあるというより、知恵の働きを隠そうとする悪魔の唆しに従い、知性の働きに自ら頼り、言葉と聖霊の呼びかけ―すなわち知恵の働きを無視したことにある。

Ⅴ マリア―受肉(⇒歌詞参照)
A) 受肉―諸元素の再創造
① 「すばらしきマリアよ、諸元素はあなたの内で喜びを受け取った」(交唱「神の指の業が」)
⇒歌詞参照
●マリアは諸元素を再創造する(元素にその出生の母体である愛を再妊娠する):マリアは諸元素の響きを取り戻す⇒ミサにおける聖変化
B) 受肉―マリア―RECREATRIX
① 「私は創造主と被造物の互いの愛を、神がその内に男と女を結び合わせて子供たちを産ませる愛と誠実になぞらえます。」(『生の功徳の書』39)⇒歌詞②③参照
② 「ヒルデガルトにとって、肉となった<言葉>の到来は多くの出来事のうちのひとつでなく、そのためにこそ世界が造られた真の出来事であり、全世界がキリストの体に包みこまれてしまうまで絶えず新たにされ、拡大されていくように定められている出来事なのである。それゆえ受難や復活と違い、<受肉>はもともと歴史的な出来事ではなく、時間と歴史を超え、永遠的なるもの、女性的に神的なるものの領域で起こる出来事である」(ニューマン66)
③ 肉になった<言葉>のみが、神によって最初に語られた創造の<言葉>を解釈することができる。」(40)-ヨハネの福音(言葉―光―命)
④ 「女は、いわば知恵の家である。なぜなら、地上の物事と天上の物事は女において完全になるからである」(『生の功徳の書』
●ここにおいてマリアはサピエンティアと同一化される。ヒルデガルトはマリアをこの世の女性的再創造主(recreatrix)として示す。
C) 宇宙的シンフォニーの受胎
① 「おお、愛する息子よ、私はあなたを子宮の中で、聖なる神の回転する車輪の力によって産んだ。神は私を造られ、私の骨組み全体を形づくられ、メロディーのありとあらゆる花を咲かせながら、音楽のあらゆる形式を、私の子宮の中に設定された」(204祈り「処女たちのシンフォニア」)
●回転する車輪は父性を表す。図④のアダムに接触する三位の車輪でもあり、響きである。
●言葉の三位⇒父:響き 子:言葉の意味 聖霊:息
②歌詞②「父の言葉」⇒響きであるから聖霊ではなく父であること。⇒別の箇所では「聖霊の温もり」
●ヒルデガルトにとっての音楽は単なる表現の一方法ではなく、三位の響きを伝える言語そのものである。
③ 「受肉は音楽そのものを体現している。マリアは自分の肉体において、<言葉>だけでなく、神の<歌>をも生むのである。」「マリアは自ら音楽となる」(204)
④ 「無垢の状態にあったアダムが違反を犯す前には、彼の声は神を称える歌を歌う天使の声と大いに共鳴したのでした。」(マインツ司教団宛手紙)
―楽園のアダムはモノコードで歌っていた。(『病因と治療』)
「歌曲を聴くと、人間はよく深い呼吸をして溜息をつくものです。それは預言者たちに、魂はそもそも天上のハーモニーに由来することを思い出させます。」(同上)
⑤ ヒルデガルトが啓示によって与えられた音声を表記するための1010語に及ぶ異語と27を越す独自文字
⑥ 言語論としてみれば、当時の「音声言語論」(vox)を中心とするアベラール等の「普遍論争」に対するヒルデガルトの態度でもあるか?

まとめ
アダムが失った神の言葉=響き(シンフォニー)を、マリアは再懐胎し、御言葉に身体を与えることを通して、元素―宇宙を再創造する。言葉とは響き―シンフォニーである。
●補足:<Ave,generosa>の母音出現数⇒a:60 i:81 u:62 e:64 o:28

Ⅵ 知恵(Sapientia)―創造の女性性(Creatrix)A) ヒルデガルトにおける「知恵」
●知恵の姿は『スキヴィアス』第3巻で初めて現れる。

① 「創造主は被造物をお造りになったとき、それを美しく飾られました。なぜなら創造主は被造物をおおいに愛しておられたからです。・・・私は創造主と被造物の互いの愛を、神がその内に男と女を結び合わせて子供たちを産ませる愛と誠実になぞらえます。(歌詞参照)・・・(被造物が創造主の愛に答えようとするのは)ちょうど女が夫を頼り、夫が求めるものをかなえ、夫を喜ばせようと努めるのと同じです」(『生の功徳の書』39)
② 「おお、知恵の力よ、あなたは宇宙を包み込み、あなたの3つの翼で、ひとつの生ける軌道を描きながら、万物を抱きしめられた。ひとつの翼は空高く舞い上がり、一つの翼は大地の本質を蒸留し、3つ目の翼はいたるところに漂う」(セクエンティア8)
③ 「私(カリタス)はあらゆる生ける火花を点火した至高の火の力、私が息吹を与えたもので死んでいるものは一つとてない。・・・私は神の本質をなす火の命・・・そして空気のような翼により、目に見えない生命の力をもって万物を活気づける」(『神の御業の書』)⇒主語はカリタスだが知恵に同じ
●カリタスはサピエンティアの他我である。第一物質の創造以降は火の力の作用という思想あり
●「創造主という父性的イメージが神の超越を強調する傾向にあるのに対して、ヒルデガルトのサピエンティアは、母性的創造主[クレアトリックス(Creatrix)]として、高みから被造物に命令を下したり生成途上の世界を万能の手でこねあげる不動の支配者ではなく、宇宙に内在することによって内側から宇宙を創造し、軽やかな循環的な運動のイメージで現れる」(88要約⇒図①
■ヒルデガルトがサピエンティアあるいはカリタスと呼ぶものは、聖書の知恵文学[箴言8章「知恵の勧め」・知恵の書7~8章・ベン・シラの知恵の書[集会の書]24章等に負っている。
―女性神秘家としては「雅歌」からの引用、影響がないことは特筆すべきである。

B) 旧約聖書における知恵
●知恵[愛calitas・憐れみmisericordiae]は旧約の荒々しく人を裁き罰する父性としての神に対して、優しい母性を対置する。
1. 知恵の書
① 「あなたはことばによってすべてを造り、知恵によって人を形造られた」(知恵の書9-1)
●知恵との響き合いこそが、他の動物と区別された人間性の根拠であること。
⇒ここでは「知恵」は「理性」に同じである。
② 「知恵はどんな動きよりも軽やかで、純粋さゆえにすべてに染み込み、すべてを貫く。知恵は永遠の光の反映、神の働きを映す曇りない鏡、神の善の姿である」(知恵の書7-24~26)
●知恵は内在的で軽やかな運動性をもち、鏡のように従順性―受容性をもつ女性として描かれる。
③「私は神の玉座のもっとも愛らしい連れ合いです。・・・私は王の結婚の臥所を守り、神の所有になるものはすべて私のものであります」(知恵の書9-4)
2. シラ書 
① 「すべての知恵は、主から来る。主とともに永遠に存在する。・・・知恵は、他のすべてのものに先立って造られ、その悟る力も、永遠の昔から存在している。知恵の泉は、いと高き所にいます神のことば、知恵の歩みは永遠の掟」(1-1~5)
3. 箴言
① 「主の知恵によって地の基は据えられ、主の英知によって天は設けられた」(3-19)

●旧約聖書における女性的ペルソナである<知恵>(ラテン語では女性名詞)は、非常に早くから男性のキリストと同一視されてきた。
「神の知恵であるキリスト」(1コリ1-24))
●「知恵は隠れた神を啓示する。知恵は創造の衣である。」
―サピエンティアとは創造主の愛の顕現(エピファニア)であり、神の花嫁―神の言葉を映し出す生ける鏡-泉である。

Ⅶ 神の知恵と人の知恵(理と理性)
A) 人の知恵
① 「宇宙の秩序、元素の働きを私は知り、時の始めと終わりと中間と、天体の動き季節の移り変わり、年の周期と星の位置、生き物の本性と野獣の本能、もろもろの霊の力と人間の思考、植物の種類と根の効用、隠れたことも、あらわなことも私は知った。万物の制作者、知恵に教えられたからである。」(同上7-18)
② 「知恵は神の認識に与り、神の御業を見分けて行う。」(同上8-4)
③ 「知恵は主を信じる人たちには、母の胎内にいるときから与えられている」(集会の書1-14)
 私はあなたに知恵の道を教え、まっすぐな道にあなたを導いた。歩いてもあなたの足取りはたじろがず、走ってもつまずくことはない」(箴言4-11)

B) 神の知恵と人の知恵の相互性
① 「かくして神の霊は、彼の被造物すべてに配られている生ける泉であり、被造物は神から生命を得て、神を通じて生命性を所有するのです、水に映る影のように。そしていかなるものも自分がどこからきているかをはっきりと見ることができません。おのおの、自分を動かしているものをただ感じるだけなのです」(『神の御業の書』Ⅲ 8.2)
●霊の動きとは本来自分が帰還するところへの感受性である。 
●祈りとは知恵の働きを待つ存在の謙遜である。知恵とは光を映し出す鏡である。
―「受胎告知」と「仰せのごとく我になれかし」:知恵の相互作用として受肉は成り立つ
② 「私のパンを食べ、私が調合した酒を飲むが良い。浅はかさを捨て、命を得るために、分別の道を進むために」(箴言9-1)
●「みことばを知る」とは「食べる」ことである。
⇒ミサにおける聖変化・御聖体の意味
⇒私たちは日々神を受胎する。

まとめ
人間に内在する神の知恵は、鏡のように神の響きを映し出す。従順とは「聖霊の響きを聴く」という存在の受動性を意味する。この受動性―神の知恵と人の知恵の相互性への信頼―が自分で何者かになろうとしたルチフェルを、そしてまた知恵の木の実を食べたアダムを超える根拠である。ミサはマリアの受肉の神秘―御言葉の受胎を繰り返し現出する。

第2章 救済―<マリアとエクレシア>Ⅰ 予定説
① 「あなたの御子が、・・・実際に人類の衣をまとい、人間のために人間の形をとることを望まれたのは、・・・あらゆる創造が行われる以前のことでした」(Sci vias Ⅲ1 )⇒歌詞
② 「キリストの絶対的予定、すなわちたとえ人間が少しも罪を犯していなくても神は人間になっていたであろう」(78 ホノリウス)
●神と人間との間にある亀裂を恩恵が完全に埋めるというこのオプティシズム
⇒ヒルデガルトも同じ思想である。原罪に人間の運命の絶対性を認めない思想は、したがって肉体―性に対しても自ずと寛容になる。「これが私の体である。これをとって食べなさい」というイエスのことばは、肉体を極限的に賛美する。イエスにあって、肉―物質は自分の宿る衣である。

Ⅱ 環帰と救済
①「万物は神から出で、神によってなり、神に帰する」(ロマ書11-36)
②「<言葉>がこの世に下ったのは、・・・みずから人間になることを通じて、それら創造された結果と再び合一させるためであった。かくしてキリストは発出と回帰のサイクルを完成させることによって宇宙の統一を媒介し、その結果、時間的な被造物ともろもろの永遠の模範は御言葉において再合一することによって「救われる」」(9世紀 エリウゲナ 83)
③ 始めと終わりの同一性によって、神は全世界と全歴史の弁証法的円環運動の根拠なのである。発出=創造の理論(ディオニシウス)

Ⅲ マリア―エクレシア―救済
①「わたしは見た。神の子が十字架に架けられている間に、エクレシアの姿が永遠の計画にしたがって光り輝きながら急いで彼の元に降りてくるのを。・・・私は天からの声が御子に向かって言うのを聞いた。「息子よ、この女をお前の花嫁としなさい。それは私の民を取り戻すためである。彼女は私の民の母となり、水と聖霊の救いの神秘を通じて彼らの魂を蘇らせるであろう」(SCI VIAS Ⅱ第6の幻視)
②図⑥「キリストの網としてのエクレシアの子宮」(Sci vias Ⅱ 第3の幻視)
右上:キリストの祭壇を抱擁するエクレシア 
左上:子供とともに音楽を奏でる母なるエクレシア(教会が巨大なオルガンとして表される時もある)
右下:三位に触れ、呼び出して洗礼を施し、キリストの網である子宮で志願者を養うエクレシア
左下:救いと滅びの道を教えるイエス・キリスト
●キリストの花嫁としてのエクレシアはカルワリの丘での婚姻から生まれた。

まとめ
シンフォニーを懐胎したマリアは、神人協力の地上の共同体であるエクレシアの姿を、計画された救済の完成として、宇宙―神のことばと響き合うシンフォニーとして予示する。

全体のまとめにかえて
●エヴァの罪とは何か?命の源であるべきエヴァは、物質の母体が「神の愛」であることから遠ざかってしまい、いわば唯物論的な元素を懐胎・産出するに至った。マリアはこの物質に神の言葉(知恵)を再妊娠し、命(の意味と根拠)を再創造する。
●知恵とは響きである。響きとは神の始原的な言葉である。私たちは祈りにおいて、響きに感応する。
●救済とは罪からの根源的な解放を意味する。それは性的な穢れに一面化されるものではなく、「知恵に聴き従う」、ということではないのか。それは人間の霊的・自然的本性に根差している、というのが、救済可能性の絶対的根拠である。イエスはその模範であり、マリアはその例示でもある。
●「人類の歴史[宇宙の歴史]は救済の歴史である」
―救済史というパースペクティブから見れば、時が満ち御子を生むマリアは、一方にエヴァを予示的な形姿としてもち、エクレシアを終末論的な形姿として立っている。エクレシアは時の終わりにおける救済の完成へと地上を旅する。

補追
遠藤周作が、「母の宗教」「父の宗教」というエリック・フロムの概念を用いながら、自分のキリスト教の根底にある「罰し・怒る神」としての「父の宗教」への違和感を、『沈黙』の主題として説明している。(「異邦人の苦悩」)
「おそらくイエスもこの母なる川のない土地に生まれた宗教に育ちながら、母なる川のないことに苦しまれたに違いないと、私は思うのである」(同上 153P)
「母なるもののイメージを自然のなにかに結びつけるのは汎神論のひとつのあらわれであるが、同時に東洋人の宗教心理の特徴であるように私には思われる」(「ガンジス河とユダの荒野」165P)
「東洋人の宗教心理には「母」なるものを求める傾向があって、「父なるもの」だけの宗教にはとても従いていけないというのが私の持論である」「旧約聖書的な父の宗教との隔たりをいつも感ぜざるを得なかった」(168P)という述懐は、遠藤のキリスト教理解を端的に物語っている。
この点の深部において、ヒルデガルト「受肉論」の日本における紹介は、意味を持つのではないか。

参考A)ギリシャにおける「魂とハーモニー」
① 「ハルモニア(音の調和・音階)には、いましがた魂についていわれたすべての特性が備わっている。つまり、これもやはり美しくて目に見えず非物体的なものである。あるいは魂とは、一部の人たちが主張するように、一種の「調和」であって、死に際して、ちょうど竪琴の響きが絶えるように消え去ってしまうのかもしれない。」(シミアス 158P⇒これは「魂の不滅説」とは相いれないという点でプラトンの説とはならない)
アルクマイオン(BC500):等律説(Isonomic)・ガレノスに影響を与えている(『西洋医学史ハンドブック』106P)
② 「(アルクマイオン等にとって)健康とは体内における諸要素の「調和」であった。そうした見地からすれば、「生命原理」がやはり「調和」と定義されることは当然であったはずである」(『プラトン入門』159P)
③「(神が人間に視覚を与えたのは)天にある理性の循環運動を観察して、この乱れなき天の循環運動を、それと同族ではあるが乱れた状態にある我々の思考の回転運動のために役立てること・・・音声を聞かせる用をなす分野のものにしても、諧調(ハルモニア)のために与えられたのです。そしてこの諧調というものは、我々の内にある魂の循環運動と同族の運動を持っているものなのでして、いやしくも理性に与り、その上で詩神たちと交際を持つほどの人にとっては、(快楽のために与えられたのではなく、我々のうちにあって)、調子外れになってしまっている魂の循環運動のために、これを秩序と自己協和へ導く友軍として、詩神から与えられたものなのです。なおまた律動(リュトモス)も、我々の内部が、大多数のものにあっては、尺度のない、優雅さを欠く状態にあるために、やはり同じことを意図して、同じ神々から援軍として与えられたのでした。(『ティマイオス』72P)
③ 「音」とは、「耳を通じ、空気の作用によって、脳と血液に及ぼされ、魂にまで伝えられるところの打撃」であると規定し、また、「その打撃によって引き起こされ、頭に始まり、肝臓の座のあたりに終わる動き」を聴覚だと規定する。(同上122P)
④ 「こうして高―低を混合して、一体化された感覚印象を産み出すのです。そしてこうしたことから、愚か者には快楽をもたらしましたが、知力あるものには歓喜をもたらすのです。――というのは、神的な調和の模像が、死すべき運動の中に生じたのですから」(同上152P)
⑤ タゴラス(BC500頃)―医師であると同時に哲学者―音響学者でもあった。
ミクロコスモス=マクロコスモスは同じ数学的法則の支配下にあり、それを耳で聞きわけることができると考えた。

B) ヒルデガルトとハーモニー
① この世の終わりには、すべてのものが浄化される。やがてそののち四つの風[元素]は交響曲の中で一つの歌を生み出すのだ。(5 審判の日)
⑥ 回転する石臼や荷を運ぶ荷車が独特の音を出すように、天空もその回転とともに不思議な音を出している。だが天空は非常に高く、かつ広いために、私たちはその音を聞くことができない。(10 天空のハーモニー)
⑦ 世界が互いに調和しあう4つの元素で構成されているように、人間も互いにハーモニーを醸す4つの体液によって構成されている。この4つの体液がそれぞれ適切な秩序と適量を保っていれば、人は安らいでおり、健康でいることができる」(57 要約)


<歌詞>Ave, generosa
Ave, generosa,gloriosa et intacta puella.
Tu pupilla castitatis,
tu materia sanctitatis,
que Deo placuit.

Nam hec superna infusio in te fuit,
quod supernum Verbum in te carnem induit.

Tu candidum lilium,
quod Deus ante omnem creaturam inspexit.

O pulcherrima et dulcissima,
quam valde Deus in te delectabatur,
cum amplexionem caloris sui in te posuit,
ita quod Filius eius de te lactatus est.

Venter enim tuus gaudium habuit,
cum omnis celestis symphonia de te sonuit,
quia, Virgo, Filium Dei portasti,
ubi castitas tua in Deo claruit.

Viscera tua gaudium habuerunt,
sicut gramen, super quod ros cadit,
cum ei viriditatem infudit,
ut et in te factum est,
O Mater omnis gaudii.

Nunc omnis Ecclesia in gaudio rutilet
ac in symphonia sonet
propter dulcissimam Virginem
et laudabilem Mariam, Dei *genitricem.
Amen
めでたし、いと気高く栄光と完全に満ちた乙女、ああ①純潔の瞳よ
あなたは神がおおいなる喜びを感じられた聖なる②物質[母体/源/matrix]
③ 天(上の精髄)があなたに注ぎ込まれ、神の偉大な③ことばは、④あなたの中で肉をまとわれた
⑤すべてが創られるはるか以前、神はあなたが⑥白い百合のように輝くのを視た
ああ、美しく愛すべき[甘美なる]お方
神が熱い抱擁をあなたの中に埋めたとき、神の喜びはいかばかりであったでしょう
こうして御子はあなたの⑦乳房に養われるのです
② あなたの胎は、響き渡る⑪天上の調べに歓びの声をあげ、①あなたの純潔が神にあって光り輝いたとき、処女よ、あなたは御子をお産みになりました
あなたの胎は歓びに満たされた
露が降りる草のように、⑧露は緑の命を草に注ぐ。ああ、すべての歓びの②母、⑨御身の中でも同じことが起きたのです
すべての⑩教会が喜びに輝き、⑪天上の調べに響きわたりますよう
いと甘美なる処女マリア、神の母を讃えますよう
アーメン
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johanusuda

Author:johanusuda
臼田夜半
鴨川市在住
著作『病という神秘』(教友社)
  『ネロの木靴』(地湧社)
  『聖ヒルデガルトの病因と治療』(ポット出版)
制作『いのちの大切さ』
(文部科学省学習支援ソフト)

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