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ヒルデガルト研究会

12世紀ドイツの女性神秘家ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの神学・医学・薬草学・音楽についての研究

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第1回 ヒルデガルト連続セミナー・レジュメ

■テーマ
Ⅰ ヒルデガルトの生涯
  ――異言・預言・ヴィジョンまたは「遠い記憶」
Ⅱ ヒルデガルトの時代
  ――12世紀ルネサンス/中世都市の成立と個人の誕生
Ⅲ 「罪意識」とヨーロッパ的個人
  ――「告解」の作用

●日本人がヒルデガルトを学ぶ際の困難性
① 12世紀ヨーロッパという時代性とヨーロッパ的個人の理解
  平安末期―保元・平治の乱 仁右衛門:38代目 約900年前
② キリスト教的基盤の共有 
復活信仰・終末論・原罪―罪意識(告解)
③ 霊魂の実在感―祈るということ
④ 異言・預言・ヴィジョンという特異な体験世界

●学ぶ方法-観想
「学習とは想起であり、そうであれば、われわれの魂は肉体のうちに縛り付けられる以前に、どこか他の場所に必ず存在していたはずだ。」
(Knowledge is recollection.) (プラトン『パイドン』)
 *ヒルデガルトは肉体と霊魂の関係を明快に述べる人である。

Ⅰ ヒルデガルトの生涯
A) 年譜
1) 1098年、ドイツ・ライン川中流域ベルマースハイムの地方貴族の家に10人兄弟の末っ子として生まれる(1099年終了の第一次十字軍の最後の時期)
2) 3歳で最初のヴィジョン(幻視)を見る 
3) 8歳でユッタのいるディジボーテンベルク修道院に入る。プサリテリウムと詩編、ラテン語の基礎を学ぶ。クラウゼという特殊世界
4)38歳のとき、ユッタの死に伴いディジボーテンベルク修道院長となる
5)42歳のとき、ひとつの大いなる輝きとともに轟きわたる天上の声に、見聞きしたすべてのことを書き表すように強く促される。クレルボーのベルナールと教皇エウゲニウス3世
『スキヴィアス』(Scivias)執筆開始
6)49歳のとき、第二次十字軍。
7)52歳のとき、20人の修道女とともにルーペルツベルクに移動。バルバロッサへの恭順表明。
8)53歳『自然学』(Physica)『病因と治療』(Causae et Curae)の執筆開始
9)57~60歳頃、長期の病床生活・病床をして説教旅行へ。以降4度の大説教旅行。
10)60歳のとき『生の功徳の書』(Liber vitae meritorum)執筆開始。
11)65歳で『神の御業の書』(Liber divinorum operum)執筆開始
12)66歳のとき、カタリ派論難。皇帝バルバロッラに警告状を送り、正当派教皇アレキサンデル三世の側に立つ
13) 67歳、アイビンゲンに平民用女子修道院の建設
14)70~73歳まで長期の病床
15)71歳のとき、皇帝バルバロッサへ神の審判が下るという強迫書簡送る。
16)80歳のとき、破門された貴族の埋葬により司教座より聖務禁止命令を受ける。
17)81歳のとき聖務禁止の解除勝ち取る。1179年9月17日死亡
●十字軍と異端審問の時代、教権は腐敗していた。

B) 著作その他の活動分野
1) 預言の書:神学・自然学の著述
神学:『道を知れ』『生の功徳の書』『神の御業の書』
2) 自然学・医学・薬学:『被造物の種々の本性に関する詳細な書』(Liber subtilitatum diversarum natuarum creaturarum)⇒写本の過程で2つの著作に分かれた
『単純医学[治療術]の書』(Liber simplicis medicinae):『自然学』(Physica)
『複合医学[治療術]の書』(Liber compositae medicinae):『病因と治療』(Causae et Curae)
5) 音楽家・劇作家(Ordo virtutum) 作詞作曲:77曲
6) 医学家・施術者:施薬院・療養所の性格を併せ持っていた修道院で、数多くの臨床経験をもつ。
 ●12世紀のレオナルド・ダ・ビンチ

C) ヒルデガルトという存在―病者であること
●無学であるという自覚
病状―「この世に生まれたその日以来、この女性は、網の中に巻き込まれているように、数々の苦痛に満ちた病とともに生きてきた。血管といわず、髄といわず、肉といわず、たえず苦痛に苛まれてきたのである。」(『神の御業』英語版265P)
「彼女はほんの幼いころから絶えず頻繁に全身が震えるような病に苦しみ、ほとんど歩くこともできなかった。彼女の命は高貴な死の彫刻のようであった」(『生涯』133P)
病の意味―「外なる人の力が減った分だけ、知恵と堅忍の霊を通して内なる力が増えて行った。彼女の肉体が衰弱する中、驚くべきかたちで、彼女の霊はより熱いものとなった」(『生涯』133P)
「理性を備えた魂の容器を通して、霊的な方法において神の神秘を目撃することを、神はヒルデガルトに望まれた。」(『神の御業』265P)
●病は魂の癒し手を育てる。

D) ヴィジョン・預言・異言 あるいは「遠い記憶」
――わたしたちは何が見え、何が見えていないのか
宇宙卵
図1 宇宙卵
宇宙=人間
図2 宇宙=人間 
operatione dei(1)
図3 世界の諸力   
hildegard(7).jpg
図4:「創造され、堕落し、購われるアダム」

①ヴィジョン
●「わたしが42歳と7か月の時、開いた天の一角からひとつの炎のように輝く光がやってきて、わたしの頭、心臓、胸の全体に降り注ぎました。それは炎のようでしたが、燃えるような熱ではなく、太陽の光線がものを温めるようでした。するとたちまち詩編や旧約・新約聖書などをいかに説明するかが与えられたのです。もっとも私はそのことばをどのように解釈すればいいかを知らず、音節の区切りも知らなければ、格や時制の知識もなかったのです。」(『生涯』130P)
●「骨や神経、血管がまだ未熟な幼いころから七十を超える今日に至るまで、わたしは魂の内にこのヴィジョンを見続けてきました。このヴィジョンの中においてわたしは神のみ心のままにその魂は天界の高さまで登り、空のいくつもの空気の層を越え、そしてさまざまな人々の中に、たとえ彼らがわたしから隔たった異なる地域や場所にいようとも、広がっていきました。わたしはこれらのものを、このようにして魂の内に見るのですが、それは変わりゆく雲や他の生き物を見るのと同じです。わたしはこれらを肉体の目で見たり、耳で聞いたりするのでもなく、また私の心にある考えによって知覚するのでもなく、いかなる五感の組み合わせによって感じるのでもありません。目は開いたまま、ただ魂の内でのみ見るのです。このようにしてヴィジョンを見ている間中、私は忘我のうちに意識を失ったことはなく、昼夜を問わず目覚めた状態でそれを見るのです。」(『生涯』150P)
●「このヴィジョンの中で、私はいかなる人間の指導もなしに、預言者、伝道者をはじめ、他の聖人の書や哲学者たちの書物を理解しました。ほとんど文字の知識がないにも関わらず、これらのいくつかを解説したのです。さらにネウマ譜や音楽に関する知識も持たずに、誰にも教わらずに神をたたえ、聖人を讃える曲を作曲し歌いました。これらのことがマインツの教会の関心を呼んで論議されたのち、誰もがこれは神からのものであり、かつて預言者がしばしば語った、神から預けられた言葉、すなわち預言であると言いました。」(同上172P)
●vision:apocalypsis:revelation  「黙示」でなく「啓示」(開示)
APOCALYPSIS BEATI IOANNIS APOSTOLI (THE REVELATION TO JOHN:ヨハネへの啓示) 
第一節書き出し:Apocalypsis Iesu Christi(イエス・キリストによる啓示)

②預言
●「彼女は霊の内に人々の人生や性質を予見し、人々の生涯の成果までも、さらには彼らの善行と徳による、それに続く彼らの魂の栄光と罰を見通した」(同上176P テオードリッヒ) 
⇒ヒルデガルトの解釈
「アダムが、最初の眠りから醒めた後に見た預言は、真実であった。なぜなら、彼はまだ罪を犯していなかったからである。しかしその後、預言には、誤りが含まれるようになった。こうして、土から造られ、元素によって目覚めたアダムは変化したが、アダムのあばら骨から造られたエヴァに変化はなかった。」(『病因と治療』45 アダムの眠り) *罪を犯す前のアダムは生け霊の力をもっていた。
●「神は言われる。終わりの時に、わたしの霊をすべての人に注ぐ。するとあなたの息子と娘は預言し、若者は幻を見、老人は夢を見る。」(『使徒言行録2-17』『ヨエル書3-1』)

③異言
litterae_ignotae.gif

●「彼女が甘いメロディと美しいハーモニーに溢れた楽曲を生み、そればかりかこれまで見たこともない文字、耳にしたこともない言語で文章を書きおろしたことに驚かないことがあるだろうか。」
「十分な配慮をもって彼女が霊の内にみたものを、純粋な心をもって寸分たりとも意味を違えることなく話したことであり、霊の内に聞いたことばを聞いたとおりに書き取ったことである。彼女は協力者としてただ一人の男性に満足していた。彼は彼女の言葉を彼女が知らなかった文法法則―格・時制・性―に従って整えたが、あえてその意味や理解に何かを付け加えたり、取り除いたりしなかったのである」
「お前は教会人の慣用となっているラテン語を口にすることができないので、天から見せられたことをラテン語の技術をもつ編集者を用い、疎かにすることなく編集し、人間向けの適切な形で完成するようにしなさい」『生涯』164~165P テオードリッヒ)
●litterae ignotae:知られざる文字(23) lingua ignota:知られざることば(1011)   

聖書における異言
●「五旬祭の日がきて、一同が一つに集まっていると、突然、激しい風が吹いてくるような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌(linguae tamquam ignis)が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった。すると一同は聖霊に満たされ、霊が語らせるままに、ほかの国々の言葉(variis linguis)で話し出した。」(使徒言行録2-1)
「異言(lingua)を語る者は、人に向かってではなく、神に向かって語っています。それはだれにもわかりません。彼は神の霊によって神秘を語っているのです。しかし預言する者は人に向かって語っているので、人を造り上げ、励まし、慰めます。異言を語る者が自分を造り上げるのに対して、預言する者は教会を造り上げます。異言を語る者は、それを解釈できるように祈りなさい。」(コリント前書14-2~4)
●lingua(tangue):舌、言葉   glossa: 説明を要する語彙、中舌
●口蓋音[カガ(シ)(爬虫類)⇒舌音[ラナタ](哺乳類初期以降)⇒唇音[マバパ](哺乳類)
●「祈りの会」⇒舌音[ラナタ] 「エロイ[エリ] エロイ[エリ] レマ サバクタニ」(詩編22)
宗族発生と個体発生(三木成夫)
三木成夫
図1:円口類の鰓の筋肉と同部の人間の変容

三木成夫(受胎32日)
図2:受胎32日目。上陸と降海の二者択一を迫られた古代魚類の時期。(『胎児の世界』37P・108P)

「図1は口から喉にかけての領域が魚の鰓腸に相当する部分であり、ここが内臓系を代表する腸管の前端露出部分である。」(46P)
●「憶とは、寒くも暑くもない、あるいは空腹でも、そういう過不足ない状態を象どるものといわれる。・・・あるいは「快」であるともいう。わたしたちの肉体は、この「真の快」―すなわち「憶」の状態をいわば骨の髄まで明記することになる。この「憶」の銘記は、まさに体の原形質にまで根を下ろした、それほどに根深いものであろう。」(三木成夫『胎児の世界』42~44P要約』
●霊が舌の形をしていることにはグロッサの意味がある⇒舌音に表される哺乳類前期の記憶
⇒この「憶」の記憶を舌が言い当てるのが「異言」である。異言は「快―心地よさ」でもある。
「わたしの心は楽しみ、舌は喜びたたえる。体も希望のうちに生きるであろう」(使徒言行録2.26 詩篇)
⇒唇が音を発するのではなく、魂が自分を言い当て、それが舌の動きによって音となるという逆の回路
⇒人間以前の「遠い記憶」:生命の記憶(⇒ハデスへ持っていける記憶)
⇒異言は人間が人間に話すことばではない。人間⇄神の言語である。(コリント)
●だがそれは異言だけの特質ではない。語源は記憶の遡行でもある。(Etymology:ヒルデガルトにおける用語)
⇒「引き渡されたときは、何をどう言おうと心配してはならない。そのときには言うべきことは教えられる。実は話すのはあなたがたではなく、あなたがたの中で語ってくださる父の霊である。」(マタイ10-19)
★病は人間という抑制を解き放ち、命の姿を露わにする。ヒルデガルトはその命の底から、命の言語である異言をもって預言を語る。

Ⅱ ヒルデガルトの時代
A) 12世紀ルネッサンスの風景

●「12世紀のルネサンスは一つの宮廷あるいは王朝の産物ではない。またイタリア・ルネサンスとも違って、一つの国で始まったのでもない。」(ハスキンス『十二世紀ルネサンス』)
⇒イタリア及びライン川とセーヌ川の間の地域(ニーダーフランケン地方)における都市の発達
・「12世紀は他に例を見ないほど、創造的で造形的な時代であった。普通ルネサンスに数えられる時代よりも、この1100年から1200年の方がはるかに多くの目覚めたもの、発展したものを示している。それは明るい調子やより生き生きした拍子に変わるメロディとも思われ、また雲の切れ目から輝きだす太陽とも思われる。」(ホイジンガ『文化史の課題』)
① 都市の成立(後述):都市の空気は自由にする。
②・トゥルバドゥール(Troubadour)・ミンネジンガー(Minnesänger:吟遊詩人)の登場
・教会の建設と教区の整備に伴う教会の鐘の音
恋愛、それは12世紀の発明である。(シャルル・セニョボス1854-1942)「微笑の12世紀」
第4回ラテラノ公会議:結婚の男女両性の合意による結婚の奨励((婚姻の氏族間取引の道具からキリスト教制度上の承認)
例:アベラールとイエロイーズの恋愛
 「純粋にあなたを求め、あなたの財貨など求めなかった。・・・妻という名称よりは愛人という名のほうがもっと甘美だったのです」(『愛の往復書簡』108P)
③大学の成立:都市の成立に伴う司教座聖堂付属学校の成立⇒シャルトル学派の自然学:自由7科の再建
「シャルトル学派は聖書の『創世記』の記述を科学によって明らかにしようとした・・・世界に創世の神話は数多くあるが、その神話を科学によって裏付けようとしていた民族はヨーロッパをおいてほかにはありません」(安部謹也『「世間」への旅』28P)
●ヘクサエメロン
●ルメートル「ビッグバン」理論::宇宙卵と創世記第一の日の記述
④ 知識人の誕生
⇒(十字軍を通した)アラビアの学術の西欧への移入が12世紀ルネッサンスの核心である。(ギリシャ語文献の95%がアラビア語からの翻訳といわれる)
⇒とりわけアリストテレスのもたらした劇的な影響
⇒理性に立脚する知識人の登場⇒近代へ
⑤ それは十字軍と異端審問―戦争と虐殺の時代でもある(資料参照):「十字軍はこの活気ある時代のもっとも重要な事件どころか、一つの相でしかない。」(ハスキンス10P)
 *ヒルデガルトはカタリ派に対する防波堤として位置づけられる側面がある。
  =ドミニコ会、フランシスコ会の成立理由

B) 中世都市の成立と個人の誕生
★わたしたちはなぜ異言を忘れ、預言能力を失ったのか。その淵源としての「都市」を見る。
★あと一つの問題意識は、近・現代文明の出発点ともいえる中世都市文明の成立の仕方にある。

①気候条件
中世の温暖期(AD800年~1300年)と小氷期(AD1400年~1900年)
温暖化による人口増加と人口増加による農業生産力の拡大

②中世農業革命
三圃式農業の発展と牛馬の繋駕法の改良(牛の前額くびき・馬の肩掛け索綱)による重量犂(8頭立て)の使用による耕地能力の発展(それまでは焼畑式・穀草式農法)
(9世紀の小麦収穫量は種の2倍程度だったのもが11世紀には8倍程度になる)
⇒農業生産力―食料生産力の増大(封建領主への貢納の物納地代から貨幣地代へ・農村部への貨幣経済の浸透)
⇒人口増加による農家の二・三男の離村(余剰労働力の産出)と放浪⇒遍歴商人・手工業者へ
(注:カタリ派には織職人(テクストーレス)が多い)

③商業ルネサンス―商業の発展
1)地中海の制海権の確保と外敵(マジャール[ハンガリー人]・ノルマン・サラセン)の侵入がなくなり、交易路が確保され、南北間交易が拡大する。
2) 遍歴商人(土地との関連が消えて自由民となってゆく)と市場の形成⇒輸送・戦禍に対する相互扶助⇒ハンザ(古ドイツ語:「団体」)の発生
4)ギルド:復讐・犠牲・宴飲会:都市における商人共同体(織物・小間物・食糧の3系列が主) 
●集団を単位とした贈与互酬社会から個人を単位とする貨幣経済へ⇒商人資本と高利貸資本は12・13世紀の西ヨーロッパでは社会的に不可欠な経済行為になっていた。
5) 商業資本・銀行資本の成立←埋蔵財産の停止による資本への還流(現世の贈与関係に神を介在させることによる教会財政への還流の要求がある)⇒金儲けは罪という意識の残存⇒のちの煉獄

④都市の成立
1) 都市の成立:マインツ・ケルンなどラインとセーヌに挟まれたニーダーフランケン地方
=ここはカール大帝(シャルルマーニュ)のカロリング朝の支配範囲
2) ハンザ・ギルドの形成―誓約共同体としてのコミューンの形成
●「宣誓共同体の存在という事実から一般的な都市の自由が発展した」(プラーニッツ『中世都市成立論』68P)
●「商人と手工業者が合体したときに都市自治の担い手である市民層が形成される」(鯖田豊之『ヨーロッ封建都市』95P) 
誓約兄弟団⇒宣誓共同体(コミューン運動)⇒市民の成立
1.宴飲会参加義務
2.死者供養義務
3.軍務義務
4.復讐義務
5.納税義務―自己の所有する食料の共同体への供出と共同体による自由な分配への委任
6.援助義務―貧窮団員への援助
3)都市の空気は自由にする 
●都市に移住後、1年と1日が過ぎれば正式に市民として認められる慣行が成立。旧領主の引きわたし請求は1年で失効する。
●出自の不明なものは、積極的に証明されない限り自由民として扱うこと。
1.人格的自由(他人に拘束されない自由:農奴)
2.土地所有の自由
3.結婚強制からの自由
4.移動の自由
5.都市内武装の禁止―平和の享受
6.アジール権がある
4)都市は平和域でもあり、都市内への武器の携行は禁止された。コミューンは自由・自治だけでなく、平和域の確保でもあった。 
*都市といっても数百人から千人未満の都市が多数である。都市の規定は人口ではなく、ギルドと自治。
5)コミューンは都市領主と対抗するために上級権力(国家など)に保護を求め、上級権力は都市領主を越えた支配の欲求・利害からそれを承認した。
★都市の成立によって個人が成立し、自然を客体的な自然として見る科学が発達してゆく。
 都市⇄個人⇄科学   ●アントワープの風景

Ⅲ 「罪意識」とヨーロッパ的個人―「告解」の作用
A)個人の成立と教権の反動―告解の作用―性と呪術

第4ラテラノ公会議(1213年:インノケンティウス3世)
・異端に対する宗教裁判所の設置
・神判の禁止
・14歳以上の信徒の年一回の告解の義務化
⇔それまでの公開告白・カタリ派の公開告白
告解室
●12世紀に胎動したヨーロッパ的な個人とは、いったいどのようなものであるかを考えるとき、ミシェル・フーコーの次の指摘は示唆的である。
①「想像してみなければならぬのは、十三世紀初頭に、すべてのキリスト教徒に対して、少なくとも一年に一回は跪いて、自分の犯した過ちのことごとくを、どの一つも落とすことなく、一つ一つ告解しなければならぬという命令が、どれほど途方もない要求に思えたかということである。」(ミシェル・フーコー『知への意志』79P)
②「少なくとも中世以来、西洋社会は告白というものを、そこから真理の産出が期待される主要な儀式の1つに組み入れていた。1,215年のラテラノ公会議による悔悛の秘蹟の規則化、それに続く告解の技術の発展、刑事裁判の手続きにおける告訴に重点を置く方式の交代、有罪性の試練(誓言・決闘・神明裁判)の消滅と訊問ならびに調書の方法の発展、・・・異端審問所の設置、これらすべては世俗的ならびに宗教的権力の次元において、告白に中心的な役割を与えることに貢献してきた。」
(同上76P)
③「個人としての人間は長いこと、他の人間達に保証を求め、また他者との絆を顕示することで(家族・忠誠・庇護などの関係がそれだが)、自己の存在を認識してきた。ところが、彼が自分自身について語ることができるか、あるいは語らざるをえない真実の内容によって、他人が彼を認識することになった。真実の告白は、権力による個人の形成という社会的手続きの核心に登場していったのである。・・・それ以来、われわれの社会は異常なほど告白を好む社会となった。・・・西洋世界における人間は告白の獣となった。・・・ところで、キリスト教の悔悛・告から今日に至るまで、性は告白の特権的な題材であった。」(同上76~79P要点)
●『モンタイヤー』(ジャック・クリニエ)とヒルデガルトの性科学
⇒贖罪規定書:俗信や魔術など迷信や性生活など民衆の日常生活の細部の罪を規定。(カロリング・ルネサンス以降、社会のキリスト教化の一環)
④阿部謹也の見解
「告解とは自分の内面を詳査して語ることで自己を形成した。告解という仕組みは各個人に内面の観照を促すことで自己を点検・保守・管理させる自己統治の装置として機能した。
このようにしてヨーロッパ的な個人は生まれた・・・告解とは自分の行為(感情を含む)を絶対的な基準に則って図ることを意味する。罪が絶対的な尺度となる社会、それがヨーロッパにおける個人である。教会は、その肉を支配する方法として、罪意識を、それも性的な罪意識を通して支配した。・・・罪の中でも性的な関係は常に汚れ、穢れをもたらすものとして罪の筆頭にあった。」(安部謹也『ヨーロッパを見る視角』108~110P・117P要旨)
(それに対し、日本の基準は「罪」ではなく「世間」である。)
⑤このとき告解は性の罪を中心とした「心理と倫理」(良心の糾明と悔い改め/裁き罰し赦す聴罪司祭)となる。⇒その底には性へ一面化した原罪論があり、司祭への隷属がある。
⇒罪の性への一面化の根源には原罪の解釈の仕方がある。
⇒図4「購われるアダム」⇒アウグスティヌス的・父権的原罪とヒルデガルトの原罪論には深い淵がある⇒(第2回)
⑥性への一面化だけでなく、神明裁判の否定―神の審判の廃棄―及び一木一草に精霊が宿るとする呪術と迷信をも重要な告解題材とした。⇒贈与世界とそこに精霊の根絶⇒ヒルデガルトの呪術的処方はなぜ罪―異端とならなかったのか。

告解と表出主体としてのヨーロッパ的個人―告解は自己を語る
①「そこから多分、文学における変容も由来する。かつては勇気や聖性の「試練」をめぐる英雄的な、あるいは神秘的な物語に集中していた、語り・聞くという快楽から、告白という形式そのものが手の届かぬものっとしてちらつかせる真実を、自己の深奥から、言葉の間に昇らせるという際限のない努力を使命とする一つの文学へと、人は移行したのである。そこからは、あのもう一つの哲学する方法というものも生まれてきた。真なるものへの根本的な関係を、単に自分自身において―何かしら忘れられない知、あるいは、ある種の生まれつき持つ痕跡の中に求めるのではなく、移ろいやすい数多の印象を通じて意識の根本的な確実性を解き放ってくれる、自己の検討というものの中に求めるのである。」(77~78P)
②文学は告白文学に変容し、音楽は自意識の表現となる。⇒心理学・精神分析へ
●イグナチオでの経験:聴罪司祭の霊的透視力⇒H②「彼女は霊の内に人々の人生や性質を予見し・・・」
★神から来て神に向かうのでなく,自己を語る。
★自己表出が「わたくし」なのか。受容者が「わたくし」なのか。

告解的自己表出と異言の相違
①告解は自己が自己を表出することである。告解を通して自己を見つめるという作業は、心―精神こそが私であるという観念を培ってしまったのだろう。
②自分が自分を見つめるという個人の成立とまったく一つのものとして、自然が客体的な自然として現れる。肉体も精神とは区別された客体的な肉体として現れるというこの時代の特性がある。
③異言は霊が自分を言い当てることであり、自分が言い当てるのではない。言い当てられた自己が自己となる。
④異言は肉体の言語―肉体性の言語であるが、その肉体を客体としたとき、言語は肉体性を喪失し、理性の一面的な領域―近代的な言語―近代的な知となった。すなわち肉体を含む全存在的な言語力を喪失した。異言の背後には広大な贈与世界と呪術、そして全被造物へと下降する生命的な世界がある。
⑤異言の忘却と言語の一面化は、客体化された肉体と、肉体から遊離した霊魂の分離に根差している。

結語に代えて
●都市は土から離れて成立した。自然から乖離すれば、人間は肉体性を喪失するということではないか。それが都市の成立とともに、この時代に起きた。そして「自立的」な自己が成立するとともに異言は、贈与世界とともに消えてゆく。肉体の霊からの離陸(「世間」からの離陸にとどまらない肉と霊の分離)
⇒ヒルデガルト幻視図3.4
●二つのこと―すなわち異言の忘却(表意言語の一面化)と原罪の性的一面化は、ともに肉体性の喪失を通した存在の全体性の喪失に根拠をもつのではないか。
ヒルデガルトは、アリストテレスではなく、プラトンの水脈を保ちながら、肉体と霊魂を持った存在の全体性を、かろうじて保持した最後の人ではなかったか。もしヒルデガルトの原罪論―神学が主流になっていれば、以降のキリスト教は違っていただろう。人間の内に、あるいはその背後に、延々連なる被造物と死者の世界をひきつれた者としてヒルデガルトの魂は、石牟礼道子や宮澤賢治の魂とともにあるのかもしれない。



資料

A 胎動する都市市民と教会権力の反動―12世紀キリスト教の変質

■公会議
1054:大シスマ(フィリオクエ論争)東西教会の分裂
1075:グレゴリウス改革(教皇権の世俗権に対する優位性の宣言と聖職者の綱紀粛正)
1077:カノッサの屈辱(神聖ローマ帝国ハインリッヒ4世の教皇グレゴリオ7世への忠誠の屈辱的表明)
   =教皇権の全盛期(教皇による皇帝・国王の任命権の掌握)と十字軍敗退による権威の失墜の開始
① 第1ラテラノ公会議(1123年 カリストゥス2世)
1) 聖職叙任権の教会への帰属(ヴォルムス協約)の司教団による承認
2) 聖職売買禁止の再確認(リヒャルデス独立へのヒルデガルトの反対)
3) 十字軍参加者に対する部分免責と従軍家族および財産保護の徹底
4) ローマ巡礼者への略奪の禁止
② 第2ラテラノ公会議(1139年 インノケンティウス2世)
1) アナクレトゥス2世支持司教・枢機卿の罷免
2) 聖職者と修道者の婚姻の無効
3) 聖職者の私有財産保持の否定を提唱した参事会員アルノルド・ダ・ブレシアの説教・著述の禁止・焚刑
○1159~1177
神聖ローマ帝国皇帝・赤髭王バルバロッサ=フリードリッヒ1世は教皇アレキサンデル3世に対する対抗教皇ヴクトル4世擁立。その後さらにパスカリス3世、カリスト3世を擁立。1177年に教皇アレキサンデル3世とフリードリッヒ1世との間で和解成立:いわゆる小シスマ:ヒルデガルトからの書簡)
③ 第3ラテラノ公会議(1179年 アレクサンドル3世)
1) カタリ派への破門宣告
2) カタリ派との戦いを十字軍として扱うこと(アルビジョア十字軍)
3) ワルドー派(リヨンの貧者)による「信徒による説教の許可申請」の拒絶
 *1173年 ピーター・ワルドーによる「清貧・信徒による説教・ラテン語聖書の翻訳
4) 同性愛を公式に断罪
④ 第4ラテラノ公会議(1213年 インノケンティウス3世)
ニケア公会議に匹敵する規模での公会議の開催
1) 異端と異端保護者への処罰
2) 異端に対する宗教裁判所の設置
3) 神判の禁止
4) ユダヤ人・イスラム教徒への差別的服装(山高帽・マントなど)の義務化
5) ローマ法王の首位権の確認
6) 聖変化の教義の宣言
7) 14歳以上の信徒の年一回の告解の義務化(告解室)
8) 結婚の男女両性の合意による結婚の奨励(婚姻の氏族間取引の道具からキリスト教制度上の承認)

■12世紀キリスト教―信仰の変化
1054年:大シスマ(フィリオクエ論争)
① フランスを中心とするマリア信仰の大衆化(各地のノートルダム寺院建設)
(⇒ 神の模性 ヒルデガルト神学の特異性 Ⅸ 後述)
② 聖心信仰―キリストの受肉:身体性の変化 (⇒Ⅷ 後述)
「みことばが人となる」(ヨハネ)⇒ミサにおけるキリストの体(⇒聖体論)
「あなたがたの体は、神からいただいた聖霊が宿ってくださる神殿(である)」(1コリ 3-16)
③煉獄の発明と代祷の始まり―地上の教会は死後の世界までもその支配下に置く。

■十字軍
第1回十字軍 1096~1099:イエルサレムの奪還
第2回十字軍 1147~1148:ベルナールの演説 敗退
第3回十字軍 1189~1192:敗退
第4回十字軍 1202~1204:コンスタンチノープル攻略・東ローマ帝国市民の虐殺
アルビジョア十字軍 1244 モンセギュール陥落
第8回十字軍 1270~1272 1291年に壊滅

B ラングドックを中心とするカタリ派の台頭
① マニ教からカタリ派へ
1) 小パウロ派:260年 サモサテのパウロ アルメニア
2) ボゴミール派:9世紀半ば ブルガリア・ユーゴスラビア 開祖ボゴミール
         15世紀後半トルコの侵入により壊滅
② カタリ派:「清浄なるもの」
1) 1017年オルレアンで最初のカタリ派発覚
2) カタリ派の拠点ツールーズはヴェネチア、ローマに次ぐヨーロッパ第3の都市であり、古代文明直系たる南フランス諸都市は、独立の感覚と自由を愛する心を古代から受け継いでいた。住民選出の市政執行官は領主たちともわたりあった。(⇒吟遊詩人トゥルバトゥールの自由精神:ラングドック・プロバンスなどカタリ派の地方と重なる)*織職人(テクストーレス)が多い。
③ アルビジョア十字軍は南仏を併合し、統一国家への過程での戦争でもある。(聖王ルイ)
④ 完徳者と帰依者(マニ教では聴聞者:アウグスティヌスは聴聞者)
⑤ 教義の大半はマニ教(3世紀ササン朝ペルシャ・イラン)の影響下にある
―地上世界は悪と考える霊肉二元論
「初めにふたつの原理があった。善の原理と悪の原理である。永劫のうちにあって、前者には光明が、後者には暗黒が存した。光明にして霊的なるものすべては善の原理に由来し、物質的かつ暗黒なる一切は悪の原理に由来する」(カタリ派信仰告白冒頭部分)
―カタリ派自身は自分たちをキリスト教徒と呼んだが、ル・ゴフはマニ教であり、したがってキリスト教異端とは呼べないという。だがカタリ派自身はマニを教祖とは見ていない。
⑥ 異端審問の始まり(ドミニコ会)
⑦ ベジェの大虐殺(3万―自称10万 カトリック教徒を含めた住民全員の虐殺)
「すべて殺せ、神は神のものを知り給う」(シトー会院長アルノー・アマルリック)
⑧ 1244年モンセギュールの陥落(45年間・15県・100万の犠牲)
⑨ 教義
1) 旧約聖書の排除―新約聖書のみに依拠(cf:シモーヌ・ヴェーユ ペナン神父への質問状)
2) イエスは神の被造物であり、その降誕化肉はただそう見えたにすぎない。(イエスの人性の否定。仮現説:グノーシス派に共通する)
3) 聖餐式の排除(パンも葡萄酒も物質であり、物質である限り悪である)
4) 十字架・聖堂を認めず、一切の秘跡の否定(⇒当時のカトリックの腐敗)
―洗礼式に替わる「救慰礼」の中心的動作としての「按手」が唯一の秘跡
5) 公開告白
6) 完徳者は無所有・結婚・性交・肉食・飲酒の忌避・[耐忍(エンドウラ):死に至る絶食:14世紀以降]
7) 帰依者の誓い(リヨン典礼書)
1. 神と福音へ身をささげる  
2. 油で調理された野菜・魚以外の肉や卵やチーズを食べないこと(生殖の結果である動物由来食の禁忌)
 3. 嘘言を吐かない、誓いをたてない
 4. 肉体の交渉に身をゆだねない
 5. いかなる形の死の脅しに対しても教団を棄てない
―この誓いののち、「主の祈り」を唱え、完徳者が按手し、頭に福音書を乗せる。
8) 輪廻転生
9) 一切の殺傷の禁止
⑩ 「清貧と窮乏と断食の生活をするドミニコ会の成立⇒のちのフランチェスコ会も同じくカタリ派への防波堤の役割を果たす。ドミニコ会・フランチェスコ会はカタリ派との緊張で創られた。
⇒ヒルデガルトはカタリ派の防波堤の役割を担う(←聖ベルナール)

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johanusuda

Author:johanusuda
臼田夜半
鴨川市在住
著作『病という神秘』(教友社)
  『ネロの木靴』(地湧社)
  『聖ヒルデガルトの病因と治療』(ポット出版)
制作『いのちの大切さ』
(文部科学省学習支援ソフト)

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